よく先生方から「なぜ酒をやめなければならないのですか」という質問を何度も受けますがなぜですか。

我々がこのような質問を患者さんにすることにより、その返答でその人が自分をアルコール依存症だと認めているかどうか、また自己の酒害をどこまで認識できているかが分かるからです。

アルコール依存症は、一般内科の病気と違って身体だけが悪くなる病気ではありません。アルコールにコントロールを失った飲酒生活の中で、身体も心も社会生活も障害される病気なのです。

人間は、いつか身体的な病気になるものですし、このような身体の病気に対しては本人の責任はあまり問われないものです。しかし、心の障害や生活を含めた社会的な障害に関しては、義務や責任をはたせない駄目な人間として白眼視されたり、駄目な人間として責任を問われます。そのため、アルコールに溺れてが破壊されたり、心がすさんでいけばいく程、そのように駄目になってしまった自分を認めたくないのはある意味では当然のことでしょう。

アルコール依存症者は、あらゆる理由をつけて身体障害以外の自分のアルコール問題を否認しています。なぜなら、意志の弱い駄目な人間であると他人から責められ、自分ではそれを認め難いからです。

そこで、アルコール依存症の患者は身体疾患に逃げ込もうとします。先程述べたように、身体疾患は本人の責任が問われないからです。「自分はアルコールの問題はない。身体が悪いだけだ」

これが彼らの言い分です。「なぜ酒をやめなければならないか」という質問に対して、このように答える人はまだアルコール依存症について全く理解できていません。いつか「体が良くなったから少しくらいなら飲んでもよいだろう」とばかり再飲酒が始まり、たちまちコントロールを失った以前の状態にもどってしまいます。かくして、このような人々は内科の病院の入退院を繰り返しているわけです。

次に自分はコントロールした飲酒、つまり節酒ができない体になっており、断酒しか方法がないということが理解できているかどうか、この質問でわかります。

院内でのプログラムや地域での例会に参加することによって、その人の断酒の理由は変化していくはずです。身体面にのみとらわれるのではなく、その人のや社会生活にどれくらいの酒害があったのか理解していくうちに、この質問に対する返答が変わってきます。また、自分は節酒はできないと認めると共に返答も変わってきます。

このような「断酒理由の成長」が断酒の決意をより強固にし、へのステップとなるはずです。

身体面にのみ目を向け「断酒理由の成長」がない人は、残念ながらいつまでも同じ失敗を繰り返すでしょう。

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