院長からのメッセージ
第1回「アルコール依存症の回復の難しさ」
2018.3.4
アルコール依存症者は、自分のアルコール問題を過少にしか考えなかったり節酒にこだわったりします。これをニコチン依存と比較してみましょう。
ヘビースモーカーの人に「あなたはニコチン依存症ですね」と問うと、素直に認めます。また、一日の本数を減らしましょうとか週に何日かはタバコを抜きましょうとか、機会があれば少しぐらいのタバコはいいですよと述べると「そんなことは出来ません」と答えるものです。半年や一年禁煙した人に、もう吸ってもいいのではないですかとは誰も言いませんし、止めていても喫煙が始まると元の木阿弥になることは皆さん知っています。つまり、ニコチン依存症者は、最初から依存の本質を理解しているのです。
それに反して、アルコール依存症者は全く違います。
まず、自分がアルコール依存に陥っていることを認めようとせず、周囲が困って来院される方がほとんどです。また、せっかく来院できても自分はアルコール依存ではないと言い張ったり、節酒にこだわったりして、最初から回復のチャンスを逃してしまいます。
あるいは、せっかく本人が断酒していても、周囲の人が少しぐらいならいいだろうと勧めることもよくあります。つまり、ニコチン依存と違って本人も社会もアルコール依存の本質を知らないのです。
アルコールが身体におよぼす悪影響は、タバコの比ではありません。アルコール摂取に関連する身体の病気については別の機会に説明しますが、残念なことに、一般の医師もアルコール依存症のことを正確に理解していない人が多いので、節酒を勧めてしまうこともよくあります。そんなことをしている間に大量飲酒が続き、身体のいろいろな病気は悪化の一途をたどり、ついには死に至ります。身体だけでなく、家族や職場や大切な友人たちの信頼を失い、人間関係が崩壊してしまいます。周りから相手にされなくなると、心の中は受け入れてもらえないやるせなさや寂しさ、孤独感、無気力、抑うつ状態に陥り、これが更なる飲酒を呼んでしまいます。また、生活もリズム感を失い張りのある生活も障害されてしまいます。
次に、いろいろな問題を乗り越えようとしても一方では各種の問題は溜まっていき、その過程の中で問題解決能力も低下します。まとめますと、アルコール依存は身体の病気だけでなく心の障害、生活の障害、生きる意欲の障害、という風に人間の持っている大切なものを全て奪いつくしてしまいます。
回復のためには、まず、自分がアルコール依存であると認めることが大切です。
最初は、悪化した身体のために止めなければならないと断酒しても、少し良くなると再飲酒が始まり、また身体を悪くするという悪循環が認められます。アルコール依存症者が一番多くかかっている医療機関は内科なのです。しかし、そんなことを繰り返している間に上記のように大切なものを全て失ってしまいます。
アルコール依存からの回復を阻害する、一番の要因がそこにあります。
そして、やっと自分のアルコール問題を認めて断酒を継続しようとしても、いろいろな障害が待ち受けています。たとえば、飲酒時代の後遺症は、肉体の病気による辛さやしんどさだけではありません。飲酒時代に失ったもの、失職や離婚は言うに及ばず、職場が自分を重要視しなくなったことに対するやるせない感情、家族が相手にしなくなったり冷たくなったりしたことによる情けなさ、飲酒時代にやり残した経済問題や子供の問題など、一般の人よりも障害物が積み上がっています。
また、断酒していても周囲の人がそれを疑うこともあって、情けない思いや怒りも出現します。簡単に言うと、一般の人と比較して環境が悪化しているのです。
人間は、習慣の生き物です。このような問題に何度もぶつかっているうちに飲酒欲求が高まり、飲酒再発することが多々あります。アルコール依存が作り出した問題が、断酒の大きな障害になるというジレンマに陥ります。
このようなアルコール問題から回復するためには、アルコール依存症のことを良く知っている人や機関に相談することが最善の方法です。
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