banner

院長からのメッセージ

第14回「社会的自己とセルフトーキング~本質的自己とセルフディアローグ」

2018.9.21

 私たちはよく、自問自答して、打ちひしがれたり、怒りに駆られたり、自己卑下したりすることがあります。これを自己対話と専門家は呼んでいます。その自己対話の相手とは、実は自分たちが生きてきた中で外部からの刺激によって作り上げられた自己認知であるのです。
 この自己認知にメッセージを送りこむ外部の要因として、以下のようなものがあります。


 1. その地域の古来の文化
   ・・・世間体を気にしなさい、他人と同化しなさい、他人の目を気にしなさい、など。

 2. 時代ごとに変わる文化
   ・・・女性は豊満な肉体を持っているほうが価値がある、スリムでなければ価値がない、スリム
   であっても部分的には豊満でなければならない。男は強くなければならない、男らしい体つきを
   しているほうがよい(胸毛がはえているなど)、あまり男らしい体つきをしていては価値が
   無い、など。

 3. 子どものころ自分に影響を与えた大人たちや義務教育という制度
   ・・・影響力のある大人たちが持つ価値観(自己認知)に合わない人間は価値が無い、他人の
   目を気にしなさい、他人と同化しなければならない(小学校、中学校というのは、それでなくて
   も一番他人の目を気にする時期であり、同年代の人の目を気にする時期に重なり、しかも各学年
   ほぼ同年代の人が固まっています)、など。

 4. 職業によって送りこまれたメッセージ
   ・・・職人は、酒に強くなければならない(これは昔からあったものではなく高度成長の時期に
   培われたものです)、いつも100%の力を発揮しなければならない、機能的でテキパキしている
   人ほど価値がある、など。

 5. コマーシャリズム(メディア)を通したメッセージ
   ・・・清潔でなければならない(自己臭症が増えた原因でもあります)、集団化していつも陽気
   でなければならない、友人は多ければ多いほどよい、女性でも酒を飲むのがファッショナブル、
   グローバル化社会に向けて英語が出来なければならない、いつも友人と確かめ合わなければなら
   ない、完璧な健康体でなければならない、など。

 6. 工業先進国であるためのメッセージ
   ・・・機能的な人間ほど価値がある、欠点があってはいけない、ミスをしてはいけない、など。

 7. 各種の不安産業など
   ・・・不安産業については、5.と重なる部分が多い。


 生活や社会経験を積み重ねていくうちに、以上のような事柄が私たちの自己認知に取りこまれていってしまいます。私たちが自己対話(自問自答)している相手は、こうして外部から刷り込まれてしまった自己認知なのです。そして、自己認知と合わない現実の自分と、作り上げられた自己認知の間にギャップがあると、そのギャップにつまずいて自らを傷つける感情や行動をとることが多いのです。このような自己対話のあり方をセルフトーキングと呼びます。そして、多くの人たちがセルフトーキングをしては傷ついていきます。

 セルフディアローグとは、自己対話の相手を自分のことを一番大切にしてくれる親友のようなものとして対話をすることです。ディアは「親愛なる」、ローグは「言葉」という意味があります。あなたは、親友が失敗したとき、ひどく怒ったりさげすんだりはしないでしょう。ときには、励ましたり慰めたりするでしょう。それなのに、なぜ自分がミスを犯したとき自分を怒ったり自己卑下したりするのでしょうか。対話の相手を、先ほどのような外部から刷り込まれてしまった自己認知を中心にしないで、親愛なる対話相手を自分の中に作るのです。

 インナーチャイルドとは、子どもの頃に刷り込まれた自己認知を相手にせずに今の自分が昔の傷ついた自分を励まし慰める相手となるわけです。この作業を続けることが大切です。
 インナーピアレンツとは、誤った自己認知から遠ざかり人間らしく接する自己対話のことです。
 (ピアレンツとは親の意味)。
 最近、インナーチャイルドとかインナーピアレンツという言葉をある種の専門家たちはよく口にしますが、実は自己対話の相手を親愛なるものに作り変えていくことなのです。
 落ち込んだり、がっかりしたり、いらいらしたり、怒りの感情にさいなまれたり、完璧でない自分に愛想を尽かしたときなどは、いつもセルフディアローグをする習慣を身に付けましょう。
 そうして、自分の認知の歪みを少しずつ修正して行くことです。




Copyright(c) 2015 宋神経科クリニック. All Rights Reserved.