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院長からのメッセージ

第18回「アルコール問題と治療の対象」

2018.11.16

 アルコール依存の問題点①

 元々緊張が高い人や対人障害、感情障害、生活障害を持つ人、特にうつ傾向の人々や世の中で生き辛さを感じている人々は、当院通院前に各種の病名で神経科に掛かっていることが多く、そこで投薬される安定剤や睡眠剤とアルコールを併用する為に余計に心身共に悪化します。また、そのような通院歴が無い人々でも、断酒生活を始めると元来感じていた生き辛さがしらふの状態で浮き彫りになります。
 それらのアルコール依存に隠れた病や障害は、断酒教育だけではなく、診察や各種の治療で対応して行きます。


 アルコール依存の問題点②

 長年の飲酒生活のため、同年代の人々と比べると様々な問題が放置されていて、しかも長年の飲酒生活によって問題に対応する能力が低下しているので、せっかく断酒が出来ていてもそれらの問題にぶつかってしまうと飲酒欲求が強くなり、比較的簡単に飲酒再発に繋がってしまいます。

 アルコール依存の問題点➂

 アルコール依存症者の中でも、おとなしいタイプの人は当初、なかなか発見されません。そして、いつの間にか問題が山積みとなるのですがそれらは放置されてしまい、多くは内科疾患だけを気にして内科に通院を続けることになります。当院でも新しい患者さんに病歴を聴いてみると、内科受診歴が平均7.5回にわたります。そのためアルコール関連臓器疾患を診る内科医と、アルコール専門医との連携が必要となってきます。

 アルコール依存の問題点④

 アルコール依存症者は「自分にはアルコール問題は無い」と、頑固に言い張るため、専門治療に繋がりにくい傾向が強いです。これを「アルコール依存症の否認」と呼びますが、その否認を解く工夫が必要です。

 アルコール依存の問題点⑤

 アルコール依存症とうつ病との合併の場合は、抑うつ傾向が強い人やうつ病の人がアルコールを薬の代わりに使っている間に依存になるケースと、アルコール乱用のため家族やその他の人々を含む社会との関係性を失い、その結果意欲の低下やうつ傾向になるケースの二通りがあります。多くの人はアルコール問題を隠して、うつ病のみを訴えて神経科を受診していることが多いのですが、前述したように薬物とアルコールの併用により、うつ病は益々酷くなります。このような人々にも適切な対応が必要です。

 外来診療の特徴

 入院中の患者さんは、入退院を繰り返している人と初めて入院する人の集団ですので、断酒しようとする雰囲気が生まれにくい傾向にあります。その点、外来診療では、通院しながら断酒を続けている人々の中に入ることになりますので、集団の良い雰囲気による治療が可能です。
 そのメリットを生かして、他の医療機関や行政に対しアルコール問題を持つと思われる人々に気楽に当院を受診するよう勧めていただくと、外来は入院と比べて敷居が低いので精神病院を嫌がる人や女性などには来院し易く感じてもらえます。
 来院後、通院での各種プログラムや集団での良い雰囲気によるメリットの中で、徐々にアルコール依存症という病への理解や正しい知識、その後の対応策が付いていきます。
 自らのアルコール依存症を最初から認め治療を求めて来院する人はほとんど存在しません。ほとんどは周囲の勧めにより受診することが普通の形ですので、忙しい現場において診察のみでアルコール問題を早急に認めさせることは非常な困難を伴います。


 治療の対象者

 ● 少しでもアルコール問題があると思える人
 ● 本人が動かなくても家族からの相談があれば先に家族の受診を勧める
 ● 治療が始まって2,3回失敗しても諦めないでいると、やがては断酒が継続できる
 ● 内臓疾患中心の人は一般医との連携が必要となる
 ● 静かなアルコール依存症について理解する
 ● アルコール依存症の否認は診察のみで解決しようとしない
 ● 断酒の目的は一般の人々に戻ることではない




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