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院長からのメッセージ

第19回「断酒新生について」~コペルニクス的転換の為に~

2019.3.24

 アルコール依存症は再発率が非常に高い病気です。ストレスが溜まったり、突発的な問題に直面したり、少しぐらいなら大丈夫だと飲み始めるとすぐに元の病的な飲酒状態になります。これが各種の薬物依存の特徴です。
 タバコも薬物依存の一種ですが、長期間禁煙していても一本吸い出すとすぐに元の喫煙状態に戻るのと同じことです。


 断酒継続のためには新しい生き方が必要となってきます。日々出くわす様々な問題のためストレスが溜まり遂には飲酒してしまう人や、長年の飲酒生活のためいろいろなものを失い、解決すべき問題が山積みになっているにも拘らずその問題を乗り切れずに飲酒再発する人がほとんどです。
 新しい生き方の目標は、各種のストレスに負けない柔軟性や精神的な喜びを認め、アルコールを必要としない生活に戻ることです。


 大切なことは、自分の人生は一回しかないと確信することです。

 そんな大切な人生を酒の為に台無しにするのは、もったいないと思わなければなりません。
 例えば、現代の医学では余命が一年、という病気を宣告されたことを想像してください。自分が、一年後にはこの世にいない事実に愕然とするはずです。
 今まで、毎日を小さいことにクヨクヨしながら悩みながら生きていたこと、社会的地位や財産や名誉なども関係ありません。そのことに気付いても、余命一年を宣告されると、いったい自分は何を大切に生きてきたのだろうと考えるものですが、もう命はあまりないのです。

 ところが、アルコール依存症は断酒後にも寿命は続き、新しい生き方や落ち着いた感情、生きる喜びを享受できます。今まで自分をアルコールに駆り立ててきた不安や対人関係障害、感情障害などは小さなものと捉えられるようになり、その人なりの一回生の人生を取り戻しながら、こころ豊かに生きる時間がまだまだ続くのです。
 これを「コペルニクス的転換」と、以前の断酒人たちはよく口にしていました。


 最近では、このような価値観の転換はあまり話題にならなくなり、断酒はしているがその人特有の苦しい生き方からの脱却も話題には上りません。
 そのような発想の転換が完成するまでは、やはり断酒継続の時間が必要です。その断酒継続の障害になる各種のストレスを乗り越える力を身に付け、その結果、断酒していることと酒の無い生活に充実感を得るためにストレスケアが必要です。


 そのコツを一緒に考えて行きましょう。

 嫌な知らせを聞いたり、気難しい人と出会ったり、何かに失望したり、特に逆境に陥ったとき、私たちは苦しさに耐えきれず、更に事態を悪化させるような対応をしたりしてしまいます。物事を過剰に考えたり、大げさに考え過ぎたり、悲観的になり過ぎたり、小さなことに囚われて苛立ったり悩んだりするとき、益々感情の泥沼にはまり込みます。
 そして、否定的な考えに囚われ過ぎ、自分に力を貸してくれそうな人々まで遠ざけてしまうものです。
 そのタイミングでの飲酒再発が多いのですが、そうなると問題を益々複雑にしてしまい自分や他人を傷つけてしまいます。そこで問題とどう向き合うかの学習も出来ずストレスに弱い人間になってしまい、いつまでも飲酒再発を繰り返す人が多いのです。


 ですが、幸いなことにもう一つの生き方があります。
 周りの人たちともっと共感し合える穏やかで心の安定した生き方です。
 そのような生き方をするためには、ある種のストレスケアのコツが必要です。この新しいストレスケアを身に付けることで、より豊かで満足できる人生を送れるようになれば、アルコールを必要としないその人なりの充実した新しい生き方が出来るはずです。これが依存症者の価値観の転換です。




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