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院長からのメッセージ

第8回「抗酒剤の本当の意味」 ~断酒後のストレス、再飲酒の危機を乗り越える~

2018.6.15

抗酒剤については大きな誤解があります。
 多くの人は、酒を無理やり止めさせるために服用させられていると考えていますが、決してそうではありません。
 長年の飲酒時代に起こりうることは、家族の信用の失墜や離婚、職場の信用の失墜や失職、その他、子供が様々な問題を起こしている場合もあります。


 アルコール依存症は、人生の中核を担う年代に重なっていることが多いのですが、その時期は、いろいろな問題に直面してそれを一つずつ解決し、それによって問題解決能力を身に付け、生活を正し、社会人としても家庭人としても成長していく期間です。しかし、その間に病的飲酒を続けていると、問題は解決するどころか山積みになっていきます。具体的には先ほど述べたように、家庭内の信用の失墜、職場での信用の失墜、それが酷くなると一家離散や失職に至ることが多いのです。

 信用の失墜とは、周りから認められなくなることです。
 人間の願望の中で一番強いものは、周りから認めてもらいたいという思いなのですが、それが全て崩壊します。飲酒時代に様々な問題に直面したとき、それを解決したり乗り越えたりせずアルコールに逃避する生活を長年続けていると、一つには、同年代の人々と比べて人間関係の環境が悪化したり、未解決の問題が山積みになったりします。


 次に、長年のアルコールへの逃避の習慣のため、しらふで問題を解決したり乗り越えたりする能力(心の体力)は低下してしまっています。
 断酒を始めたときに、全ての問題が解決していれば断酒継続も楽なものなのですが、そんなはずはありません。同年代の人と比較して、いろいろな問題が山積みになっており、障害物競走のような人生が待ち受けています。

 そこで、問題を乗り越える力が長年の飲酒生活のため低下しているのであれば、断酒していても嫌な問題がいくつも重なると、以前の習慣がよみがえります。その習慣とは、問題に直面したときに飲酒欲求が起こり、飲酒再発してしまうことです。そのことによって、更に問題は大きくなってしまいます。

 抗酒剤を使ってでも、たとえば一年断酒したとすると、その間に出会った数多くの問題をとりあえずしらふで乗り越えたことになりますので、一年経てば問題は全てとは言いませんが、ある程度解決し、しらふで問題を乗り越える力も身に付きます。そうなると、二年目は一年目にたどってきた道よりも問題の少ない平坦な道のりになります。しかし、すべての問題が解決したわけではありません。そこで、抗酒剤を使ってでも、二年目にまだ残っている問題をしらふで解決することにより、暮らしの中で出会う問題は更に少なくなると同時に、問題解決能力は向上します。三年目に入っても同じことです。

 つまり、断酒を始めたとき、先の道は障害物だらけであった人がしらふで過ごしていく中で、飲酒時代に作ってしまった問題を解決していき、生きて行く道のりを楽にするのが大切です。
 また、嫌な問題にぶつかってもしらふで解決していく日常を通して、少しの問題ではたじろがないで乗り越える、生活者としての心の体力が養われて行きます。

 まとめますと、断酒継続は障害物競走のような道のりを、しらふで乗り越えることにより障害物を減らし、更に心の体力を養い、ちょっとやそっとでは問題にたじろがない人間になることなのです。
 こうして一年経過し、二年、三年と断酒を続けると、道のりは平坦になり、くじけない心も養われ、楽な断酒、楽な生き方が出来て行くのです。そのために、抗酒剤を毎日服用することの必要性があり、楽な生き方をするための抗酒剤の効用が存在します。決して意志が弱いから抗酒剤を服用するのではなく、一年先、二年先、三年先のだんだん平坦となる、障害物の少ない日常や心の体力を養うためには、抗酒剤は大きな武器になるのです。

 抗酒剤を使ってでも、一年、二年、三年と断酒することによって、だんだんと楽な道のり、楽な生き方、楽な断酒につなげて行くことが大切です。

 外来で通院する意味は、山積みの問題を生活の中で乗り越えることにより、その人の問題を少しずつ解決し、問題解決能力を身に付ける事なのです。



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