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アルコール症テキスト 序章

 アルコール依存症の治療の第一歩は、酒にとらわれてしまって いる自分を自覚することから始まります。ところが、アルコール類 は一般的な飲み物であり毎日のように飲酒している人々が世間では いくらでもいるため、実際にこの病気になってしまっている人々に とって自覚が困難なのです。  それに、アルコール依存症の進行とともに様々な障害が現実に起 こってきますが、それらの障害も徐々に起こってくるために自覚が 難しいわけです。さらに世間でアル中という飲酒による直接的な問 題行動や生活落伍者としての姿、あるいは幻覚妄想状態になる人々 の姿をイメージしていますので、アルコール症の大半をしめている 寝型タイプのアルコール症は自分がアルコール症だと気づきにくい のです。
 寝型タイプのアルコール症については、第6章で詳しく説明しま すが、逆にこのようなタイプの人々のほうが長年の間にいろいろな 障害が静かに進行してしまい、むしろ深刻な問題を抱えることが多 いのです。
 本書は、アルコール症の人々に自己のアルコール問題をあらゆる 角度から考えて頂くためのものであり、治療開始の第一歩である自 らの飲酒問題を考えるという点に重点が置かれてあります。各章は それぞれ独立しても一つの読み物になるよう工夫してありますので、 同じような説明があらゆる場所で繰り返し出てきますが、それらの 事項は特に重要な点であるため、あえてそのままにしておきました。 第1章から終章まで、ゆっくりと自分の飲酒時代と考えあわせなが ら読まれますと、アルコール症の全体像が浮かび上がってくること と思います。
 最近は、一般向けのアルコール症に関する良書も多いのですが、 アルコール症の全てを医学的に説明してあったり、飲酒の上での悲 惨な問題などに重点が置いてある本が多いので、かえって本当のア ルコール症者やそのご家庭にとって理解しにくかったり、逆に自分 のアルコール問題の否認の材料に使われてしまうことが多いようで す。
 本書は、アルコール症に関する医学的なメカニズムの説明や身体 的な障害についての説明は省いて、自らのアルコール問題を考える 参考書として創られてあります。
 第1章から終章まで全て関連性があり、その中で第4章・第5章 の心の障害については説明不足ですが、アルコール症の治療に最も 大切なAAや断酒会の体験談として関連していますので、特に何度 も読み返されることを期待しています。
 また、アルコール症本人だけでなく、そのご家族や周囲の人々に とってもこの病気を理解される手掛かりとして本書を利用して頂け れば幸いです。
 最後に、自分のアルコール問題を理解したからといって断酒継続 ができるとは限りません。しかし、理解しないと回復の可能性が全 くないこともまた事実です。アルコール問題に悩んでいる多くの人 々が本書を利用され、一人でも多くの人々が回復されることを祈っ ています。
 また、実際の断酒継続についてのヒントやその他の疑問点につい ては「質問と回答」という本を用意してありますからそちらをご利 用下さい。


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